ナイショのしぐさのキューピッド(ファルコネ作)

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可愛らしい姿で、唇の上に指を当て、「内緒だよ」と言っているようなファルコネ作のキューピッド(クピド)像。無邪気に見えないその笑顔の話です。

『クピド』( L'Amour menaçant ) 1757年 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ ルーヴル美術館蔵
『クピド』( L’Amour menaçant ) 1757年 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ ルーヴル美術館蔵

画像の上でクリックまたはタップすると大きい画像が出ます。また、画像の左下にある「引用元」のリンクをクリックしていただければ、元のファイルをご覧になることができます。「引用元」の表示が無いものは、この記事内に掲載したpublic domain の元ファイルから、解説のために 必要な部分を拡大したものです。

目次

『クピド』( L’Amour menaçant ) 1757年頃 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ

『クピド』( L'Amour menaçant ) 1757年 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ ルーヴル美術館蔵
『クピド』 高さ91 cm×幅 50cm×奥行き 62 cm 1757年頃 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ ルーヴル美術館蔵

引用元:『クピド』 Ricardo André Frantz (User:Tetraktys), 2007 CC-BY-SA-3.0

ルーヴル美術館公式サイト『クピド』( L’Amour menaçant )/ 展示場所:リシュリュー翼、222展示室

「内緒だよ」とでもいうように、立てた人差し指を唇に当てるクピド(キューピッド)。

この像は、フランス国王ルイ15世の公式寵姫ポンパドゥール侯爵夫人のために制作されました。

ルーヴル美術館公式サイト『ポンパドゥール侯爵夫人』( La Marquise de Pompadour (1721-1764). )

『クピド』( L'Amour menaçant ) 1757年 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ ルーヴル美術館蔵
『クピド』 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ
『クピド』( L'Amour menaçant ) 1757年 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ ルーヴル美術館蔵
『クピド』 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ

光の当たり方のせいかもしれませんが、可愛いだけではなく、見る者を落ち着かなくさせるような表情…。

この秘密めいた笑いについて、『NHKルーブル美術館Ⅵ フランス芸術の華 ルイ王朝時代』ではこのような記述があります。

どこかいたずらっ子のような笑いを浮かべながら、意味ありげに唇に指をあてて座るこのキューピッドの像は、微妙な恋の駆け引きや愛の手管の洗練さを好んだこの時代の趣味をよく反映するものである。

高階秀爾(監修・責任編集). S61-3-20. 『NHKルーブル美術館Ⅵ フランス芸術の華 ルイ王朝時代』. 日本放送出版協会. p.127.

時代は、貴族たちが男女間の駆け引き、恋愛に楽しみを見出していたロココ文化の全盛期でした。

ルーヴル美術館のサイトによると、クピド像は1879年1月23日ルーヴル美術館入り。

建築家オーギュスト・ルージュヴァン( Auguste Rougevin, 1792年-1878年)の遺産とありました。

台座には、

Sur la plinthe : “FALCONET – FECIT DONNE AU MUSEE DU LOUVRE / PAR L ARCHITECTE AUGUSTE JOSEPH ROUGEVIN / NE A PARIS LE 4 JUIN 1831 / MORT A NAPLES LE 25 FEVRIER 1856”

とあり、「建築家 AUGUSTE JOSEPH ROUGEVIN (1831年6月4日パリ生まれ、1856年2月25日ナポリで死去」とは、オーギュスト・ルージュヴァンの息子オーギュスト・ジョゼフ・ルージュヴァンのことのようです。

『官能美術史 ヌードが語る名画の謎』

ファルコネのクピド像も掲載されています。著者の池上英洋氏はこの「ヒミツ」の仕草についても言及されておられます。「官能」「ヌード」との字面だけ見るとちょっと想像しづらいですが、解りやすい解説で、神話や絵画が描かれた当時の文化風習も学ぶことができると思います。電子書籍も出ていますので、気軽に読めます。

画像を押すと Amazon のサイトに飛びます。

『官能美術史 ヌードが語る名画の謎』 筑摩書房

アムステルダム国立美術館、エルミタージュ美術館にもファルコネのクピド像があります。

『座るアモール』( Zittende Amor ) 1757年 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ アムステルダム国立美術館蔵

『クピド』 高さ185.0cm×幅47.5cm×奥行き68.5cm 1757年 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ アムステルダム国立美術館蔵
『クピド』 高さ185.0cm×幅47.5cm×奥行き68.5cm 1757年 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ アムステルダム国立美術館蔵

引用元:『座るクピド』 Yair Haklai CC-BY-SA-3.0

アムステルダム国立美術館の解説はこちらです。

ルーヴル美術館のクピド像の仕草や、L’Amour menaçant という題について、アムステルダム国立美術館の解説文を参考にさせていただきます。

Dit beroemde beeld had al in de 18de eeuw verschillende bijnamen. De bekendste is l’amour menaçant, ‘de dreigende liefde’. De dreiging zit vooral in de blik van de liefdesgod, terwijl het gebaar dat hij maakt tot zwijgen maant. Het beeld is gemaakt voor Madame de Pompadour, de kunstlievende maîtresse van koning Lodewijk XV.

アムステルダム国立美術館の解説

既に18世紀から、このクピド像に付けられた最も有名な呼び名は「 l’amour menaçant 」。

意味は「威嚇する(又は脅迫的な)アモール(クピド、キューピッド)。

「 De dreiging zit vooral in de blik van de liefdesgod, terwijl het gebaar dat hij maakt tot zwijgen maant. 」の部分をGoogle翻訳に頼ってみたところ、「脅威は主に愛の神(アモール、クピド)の視線にあり、彼が行うジェスチャーは沈黙しています。」となりました。

クピドの左手には、クピドが持つ矢筒があります。

ルーヴル美術館のサイトでも観ることができますが、こちらの画像が判り易かったので掲載しました。

『クピド』 高さ185.0cm×幅47.5cm×奥行き68.5cm 1757年 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ アムステルダム国立美術館蔵
『クピド』 高さ185.0cm×幅47.5cm×奥行き68.5cm 1757年 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ アムステルダム国立美術館蔵

引用元:『クピド』 Yair Haklai CC-BY-SA-3.0

『クピド』 高さ185.0cm×幅47.5cm×奥行き68.5cm 1757年 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ アムステルダム国立美術館蔵
『座るアモール』 アムステルダム国立美術館蔵

再びアムステルダム国立美術館の解説を参考にさせていただくと、キューピッドは雲の上に座り、右手の人差し指をいたずらっぽい笑顔の口に当てています。

左手の指は矢筒の中の矢にかかっています。

足元にはバラの花。正確には「咲いたバラの花が付いた枝」です。

矢筒も画像だとはっきりわかりませんが、月桂樹の葉とゴドロン( Godron )と呼ばれる装飾文様で飾られています。(バラの花の枝、矢筒の装飾は後に挙げた動画を見ていただくとよくわかります。)

ゴドロンで飾られた器の例 Scan by Nick Michael 個人蔵
ゴドロンで飾られた器の例 Scan by Nick Michael 個人蔵

引用元:ゴドロンで飾られた器の例 Scan by Nick Michael

『クピド』( Cupid ) 1750年代 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ エルミタージュ美術館蔵

『クピド』( Cupid ) 1750年代 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ エルミタージュ美術館蔵
『クピド』( Cupid ) 1750年代 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ エルミタージュ美術館蔵

引用元:『クピド』 MarisaLR CC-BY-SA-4.0

エルミタージュ美術館の解説はこちらです。

『クピド』( Cupid ) 1750年代 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ エルミタージュ美術館蔵
『クピド』 エルミタージュ美術館蔵

引用元:『クピド』 MarisaLR CC-BY-SA-4.0

『クピド』 1750年代 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ エルミタージュ美術館蔵
『クピド』 エルミタージュ美術館蔵

引用元:『クピド』 MarisaLR CC-BY-SA-4.0

『クピド』( L’Amour menaçant ) 1757年-1766年 ファルコネのモデルにちなむ像 国立陶磁器美術館(セーヴル美術館)蔵

『クピド』( L'Amour menaçant )   高さ30 cm 1757年-1766年 ファルコネのモデルにちなむ像 国立陶磁器美術館(セーヴル美術館)蔵
『クピド』 高さ30 cm 1757年-1766年 ファルコネのモデルにちなむ像 国立陶磁器美術館(セーヴル美術館)蔵

引用元:『クピド』 Siren-Com CC-BY-SA-3.0

動画でファルコネの作品を鑑賞

L’Amour menaçant d’Etienne-Maurice Falconet : analyse

Artcothèque 様のフランス語解説付き動画です。

見たい箇所がアップで見ることが出来、正に百聞は一見に如かずと言った感じ。

映像の中、クピド像の向かって左側に、ポンパドゥール侯爵夫人のベルビュー城のために造られたファルコネの『音楽』という像も見ることができます。

(関連記事:hanna_and_art’s blog 『ブーシェの『ヴィーナスの化粧』『ヴィーナスの水浴』』

『音楽』 1752年 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ ルーヴル美術館蔵
『音楽』 1752年 エティエンヌ=モーリス・ファルコネ ルーヴル美術館蔵

引用元:『音楽』

ルーヴル美術館公式サイト『音楽』( La Musique )

※2022年2月現在のルーヴル美術館のサイトでは「展示されていない」とありました。お出かけの際はサイト等をご確認ください。

彫刻家エティエンヌ=モーリス・ファルコネ( Étienne Maurice Falconet, 1716年12月1日-1791年1月24日 )

エティエンヌ=モーリス・ファルコネの肖像 1741年 ジャン=バティスト・ルモワーヌ メトロポリタン美術館蔵
エティエンヌ=モーリス・ファルコネの肖像 1741年 ジャン=バティスト・ルモワーヌ メトロポリタン美術館蔵

引用元:エティエンヌ=モーリス・ファルコネの肖像

18世紀ロココ期、パリ生まれの彫刻家です。

彫刻家ジャン=バティスト・ルモワーヌ(子)に見出され、師事。

その後ジャン=バティスト・ピガール(彫刻家)、オーギュスタン・バジュー(彫刻家)と出会います。

画家フランソワ・ブーシェとも知り合ったことで、ブーシェを庇護していたポンパドゥール侯爵夫人とも縁ができました。

ジャン=バティスト・ルモワーヌ(子)( Jean Baptiste Lemoyne )

ジャン=バティスト・ルモワーヌ(子)(1709年-1778年)の肖像 1754年頃 Jean Valade ヴェルサイユ宮殿
ジャン=バティスト・ルモワーヌ(子)(1709年-1778年)の肖像 1754年頃 Jean Valade ヴェルサイユ宮殿

引用元:ジャン=バティスト・ルモワーヌ(子)の肖像

ロベール・ル・ロランに師事。父ジャン=ルイ・ルモワーヌも彫刻家でした。

ルイ15世の胸像、王太子妃マリー・アントワネットの胸像などを制作しました。

(関連記事:hanna_and_art’s blog 『エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランによる1778年のマリー・アントワネットの肖像画』

ルーヴル美術館公式サイト『ジャン=バティスト・ルモワーヌ(子)の肖像』( Jean Baptiste Lemoyne (1704-1778), sculpteur )/ 展示場所:ヴェルサイユ宮殿

ジャン=バティスト・ピガール( Jean-Baptiste Pigalle )

ジャン=バティスト・ピガール(1714年1月26日-1785年8月22日) 1770年頃? マリー・スザンヌ・ジロウスト ルーヴル美術館蔵
ジャン=バティスト・ピガール(1714年1月26日-1785年8月22日) 1770年頃? マリー・スザンヌ・ジロウスト ルーヴル美術館蔵

引用元:ジャン=バティスト・ピガールの肖像

フランスの彫刻家。ロベール・ル・ロラン、ジャン=バティスト・ルモワーヌ(子)に師事。

ポンパドゥール侯爵夫人の庇護を受け、ベルビュー城に飾る彫刻を制作しています。

肖像画の右奥にあるのはルイ15世像。

(関連記事:hanna_and_art’s blog 『ブーシェの『ヴィーナスの化粧』『ヴィーナスの水浴』』

ルーヴル美術館公式サイト『ジャン=バティスト・ピガールの肖像』( Portrait du sculpteur Jean-Baptiste Pigalle ( 1714-1785), assis, en habit de chevalier de l’ordre de Saint-Michel. )

オーギュスタン・パジュー( Augustin Pajou )

オーギュスタン・パジュー(1730年9月19日-1809年5月8日)の肖像 1783年 アデライド・ラビーユ=ギアール ルーヴル美術館蔵
オーギュスタン・パジュー(1730年9月19日-1809年5月8日)の肖像 1783年 アデライド・ラビーユ=ギアール ルーヴル美術館蔵

引用元:オーギュスタン・パジューの肖像

ジャン=バティスト・ルモワーヌ(子)に師事。上の絵は師ルモワーヌの胸像を制作しているところ。

ルイ15世妃マリー・レクザンスカ、ルイ15世の寵姫デュ・バリー夫人、画家エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランの胸像も手掛けています。

(関連記事:hanna_and_art’s blog 『エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランによる1778年のマリー・アントワネットの肖像画』

ルーヴル美術館公式サイト『オーギュスタン・パジューの肖像』( Portrait de Pajou, sculpteur )

フランソワ・ブーシェ( François Boucher )

フランソワ・ブーシェ(1703年9月29日-1770年5月30日)の肖像 1741年 グスタフ・ルンドベリ ルーヴル美術館蔵
フランソワ・ブーシェ(1703年9月29日-1770年5月30日)の肖像 1741年 グスタフ・ルンドベリ ルーヴル美術館蔵

引用元:フランソワ・ブーシェの肖像

ルーヴル美術館公式サイト『フランソワ・ブーシェの肖像』( Portrait de François Boucher (1703-1770). )

フーシェは絵画アカデミーの会長やゴブラン製作所の所長を務め、ポンパドゥール侯爵夫人が携わったセーヴル磁器の下絵を描いたりしました。

ファルコネもセーヴル王立磁器製作所において、彫刻工房の責任者に就任します。

ファルコネは、ポンパドゥール侯爵夫人のために制作した『クピド』( L’Amour menaçant )を発表、名声を高めます。

1766年にはディドロ(『百科全書』編纂)らの推薦でロシアのエカテリーナ2世の元を訪れ、ピョートル大帝の騎馬像を制作。

最後はフランスに戻り、パリで亡くなりました。

フラゴナールの傑作『ぶらんこ』に登場するクピド

『ぶらんこ』( The Swing ) 1768年頃 ジャン・オノレ・フラゴナール ウォレス・コレクション蔵

『ぶらんこ』( The Swing ) 1768年頃 ジャン・オノレ・フラゴナール ウォレス・コレクション蔵
『ぶらんこ』 1768年頃 ジャン・オノレ・フラゴナール ウォレス・コレクション蔵

引用元:『ぶらんこ』

私の中で、ロココ絵画と言われれば一番に思い出す絵が『ぶらんこ』です。

楽しそうなぶらんこ遊びの場面ですが、注文者の男爵は自分と可愛い愛人の姿を絵画に描き入れてもらいました。

ぶらんこは性行為を意味し、ぶらんこを押すのは女性の夫、などなど、不倫の香り高い読み解きが楽しい絵画です。

ロココ期を代表する画家の一人フラゴナールはブーシェのもとで学びました。

ジャン・オノレ・フラゴナール( Jean Honoré Fragonard, 1732年4月5日-1806年8月22日) 1760年-1770年頃の自画像 Villa musée Fragonard蔵
ジャン・オノレ・フラゴナール( Jean Honoré Fragonard, 1732年4月5日-1806年8月22日) 1760年-1770年頃の自画像 Villa musée Fragonard蔵

引用元:ジャン・オノレ・フラゴナール

では、この絵に登場する彫刻をご覧くださいませ。

『ぶらんこ』( The Swing ) 1768年頃 ジャン・オノレ・フラゴナール ウォレス・コレクション蔵
『ぶらんこ』 ウォレス・コレクション蔵

ぽーんとミュールを派手に飛ばした先にあるクピド像の仕草。

この「ナイショだよ」と言っていそうな仕草はファルコネのクピドのようですね。

『官能美術史』の著者・池上英洋氏も書いておられますが、不倫などの公にできない「ヒミツの関係」の場面に、この、唇に指を当て沈黙を促す彫像が描かれることになったそうです。

ファルコネのクピド像が無邪気ないたずらっ子などではなく、「すべてお見通しだよ」と、むしろ意地悪く言っているように見えてきますよねえ。

主な参考文献
  • 高階秀爾(監修・責任編集). S61-3-20. 『NHKルーブル美術館Ⅵ フランス芸術の華 ルイ王朝時代』. 日本放送出版協会.
  • 池上英洋. 2014-11-10. 『官能美術史 ヌードが語る名画の謎』. 筑摩書房.
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