浮世絵に描かれた蛍狩りの様子。登場する人びとは皆楽しそうです。

柄の長い団扇
夏の夜の風物詩「蛍狩り」。 風情があっていいですよね。
下に挙げた浮世絵では、蛍を捕まえようとする者、それを眺める者、と、蛍狩りに興じる様子が描かれています。

引用元:蛍狩りをする女性と子供たち
Women and Children Catching Fireflies ウォルターズ美術館
『大江戸虫図鑑』(東京堂出版)によると、蛍は意外と高く飛ぶものらしい。
持ち手の長い団扇を使い、高所を飛ぶ蛍を風圧で落とそうとしています。
『大江戸虫図鑑』のコラムに、夜に営業する蛍売りの姿が描かれていますが、そこでも柄(え)の長い団扇を見ることができます。
「長短の団扇は、蛍狩りの場面でも必ずといってよいほど見られる」のだそうです。
落とした蛍は、潰さないように注意しながら虫かごの中へ。
私は初めて知りましたが、「ホタルを潰してしまったあとで手を洗わないと、目の病気になる」と大人から教えられる子供もいたそうです。
下は、絵画と文章で摂津国の名所を紹介した『摂津名所図会』(せっつめいしょずえ)。

引用元:摂津名所図会「蛍狩り」
秋里籬島と竹原春朝斎の『都名所図会』は破格の売り上げを記録し、彼らは以後、十数種の「名所図会」シリーズを執筆しています。中でも、今の大阪府と兵庫県にまたがる摂津国をテーマにした『摂津名所図会』(1796ー98刊)は最大級の規模でした。「白井蛍狩」では、毎年初夏になると水辺を求めてホタル(蛍)が集う、白井河原 (大阪府茨木市)を取り上げています(❶)。手前では着飾った女性たちが、浅瀬の岩づたいに河原へ下りていく様子が描かれています。
西田 知己(著). 2023-4-27. 『大江戸虫図鑑』. 東京堂出版. p.96.
引用文中の「❶」は、上に挙げた『摂津名所図会「蛍狩り」』のことです。
『大江戸虫図鑑』94頁に掲載されているのは、京都のあちこちを紹介した人気の地誌『都名所図会』(みやこめいしょずえ)、宇治川の蛍狩りの様子です。
振袖姿の娘と、飛んでいる蛍を捕まえようとしている侍女の姿がありますが、娘は直接蛍に触れたくはないようですね。
こちらの絵は、国際日本文化研究センター様のサイトでご覧いただけます。
江戸女子の夏イベントのひとつ、蛍狩り。こちらの書籍でも、団扇を使う男女の絵が掲載されています
『大江戸虫図鑑』
蛍合戦(第3章 1 「ゲンジボタルのゲンジって何?」から)
「夏の夜の風物詩」とのお題が出されたら、「蛍鑑賞」や「ホタル狩り」が浮かぶ方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがいたる」と、蛍は『枕草子』にも出てきました。
蛍合戦(ほたるがっせん)という、夏の季語もありますよね。
宇治川は源氏と平家の戦いが繰り広げられた古戦場でもあり、『平家物語』の「橋合戦」では宇治橋での戦いの凄まじさが語られています。その一方で、大量のホタルが交尾のために入り乱れて飛ぶことを「蛍合戦」といい、夏の季語にもなっていました。宇治川の蛍合戦については、いにしえの武者たちの魂がホタルの輝きとなって夜空をさまよっているとも解釈されていました。ゲンジボタルとヘイケボタルについては、源氏と平家になぞらえた名称ともいわれています。
西田 知己(著). 2023-4-27. 『大江戸虫図鑑』. 東京堂出版. p.94.
『大江戸虫図鑑』には、「ホタルは幼虫も光るの?」「ホタルはどこから生まれてくるの?」といった疑問に答えてくれるほか、伊勢物語に出てくる歌についても書かれています。
もちろん蛍だけでなく、クモや蝉、鈴虫、蝶、ノミなど馴染みのある虫も出てきますよ。
下に本書の目次を掲載していますので、気になる項目がありましたらぜひ読んでみてください。 実際には振り仮名付きです。
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この本の目次
- 第1章 虫の絵本
- 1 チョウとガは区別されてなかったの?
- 2 アシナガバチの巣はどのくらい丈夫?
- 3 セミの羽化は人が手伝っちゃダメ?
- 4 コガネムシって害虫だったの?
- 5 蛍狩りってどんな狩り?
- 6 スズムシはマツムシだったの?
- 7 キリギリスの鳴き声は何に似てるの?
- 8 クツワムシはどのくらいうるさいの?
- 9 カマドウマはどうして馬っていうの?
- 10 イラムシってどんな毛虫?
- 11 カマキリの弱点はどこ?
- 12 ハエはそんなに嫌われてなかったの?
- 13 カタツムリにオスとメスはないの?
- 14 ミミズって薬だったの?
- 15 カラフルなミノムシの正体は?
- 16 ジョロウグモはどんな網を張るの?
- 17 血を吸ったヒルの大きさはどのくらい?
- 18 どうやってノミを取ってたの?
- 19 ノミとシラミはどう違うの?
- 20 ハリガネムシってどんな虫?
- 第2章 虫の物語
- 1 釈迦の死を悲しんだのはどんな虫?
- 2 呉猛はどんな親孝行をしたの?
- 3 一国を救ったのはどんなアリ?
- 4 ムカデの脚はホントに100本?
- 5 カエルは柳に飛びつかないの?
- 6 伊勢物語に歌われたの何の虫?
- 7 チョウに生まれ変わったのは誰?
- 8 俵 藤太が倒したのはどんなムカデ?
- 9 源 頼光が退治したのはどんなクモ?
- 10 『太平記』と虫のコラボ作品があったの?
- 11 加納元信の絵に寄って来たのは何の虫?
- 12 イモムシ嫌いだった武将は誰?
- 13 伝来したイソップ物語に登場する虫は何?
- 14 百物語で男に迫ったのはどんなクモ?
- 15 蚊の化け物の物語があったの?
- 16 蚊の座談会はどんな雰囲気?
- 17 「虫」の三すくみってどんな関係?
- 18 ノミに噛まれたらどうなるの?
- 19 害虫には害虫の言い分があったの?
- 20 忠臣蔵のハチの騒動は何の兆し?
- 第3章 虫の東西
- 1 ゲンジボタルのゲンジって何?
- 2 ホタルは幼虫も光るの?
- 3 虫の黒焼きってどんな薬?
- 4 啓蟄をイメージした祭りがあったの?
- 5 トンボの眼の死角はどこ?
- 6 最初にギフチョウを描いたのは誰?
- 7 富山の殿様が昆虫図鑑を作ってたの?
- 8 ハマグリの裏技ってどんな技?
- 9 薬品会で展示されたのはどんな虫?
- 10 ブドウの害虫が薬になったの?
- 11 分蜂ってどういうこと?
- 12 ミツバチもハチミツを食料にしてたの?
- 13 虫供養ってどんなイベント?
- 14 川を埋め尽くす白い虫の正体は?
- 15 江戸の虫聴きなら道灌山がベスト?
- 16 蝶売りの売り声はどんなフレーズ?
- 17 昆虫食が盛んな地域はどこ?
- 18 日本の養蚕が西洋に伝わってたの?
- 19 カイコの害虫ってどんな虫?
- 20 カイコの卵を紙に貼ってたの?
- 第4章 虫の現実
- 1 スズメバチの巣は漢方薬?
- 2 カマキリが塗り薬になったの?
- 3 ザリガニの胃石は今のサプリ?
- 4 ハンミョウの粉は毒薬だったの?
- 5 江戸城で鳥のエサになったのは何の虫?
- 6 教科書に回虫薬の広告が載ってたの?
- 7 本の虫って昆虫だったの?
- 8 シミは数億年も生きてたの?
- 9 ヒルは空から落ちてくるの?
- 10 どうやって蚊を撃退したの?
- 11 イモムシの脚力はどれくらい?
- 12 キクの手入れってどれくらい大変?
- 13 イネの害虫駆除に使ったのは何油?
- 14 夜中に田んぼで焚いてたのは何?
- 15 カイコを守る虫送りのやり方は?
- 16 飛んで火に入る夏の虫って何の虫?
- 17 万能選手だったオケラの弱点は?
- 18 モズのはやにえの犠牲になったのは?
- 19 寄生するハチは尾が長い?
- 20 蝉花ってどんな花?
- 第5章 虫の一覧
- 1 チョウの和名は何ていうの?
- 2 勝ち虫のトンボは前進しかできないの?
- 3 時代ごとに違う虫の名もあったの?
- 4 『訓蒙図彙』にカブトムシは出てくるの?
- 5 歌舞伎の演出に使われた虫は?
- 6 虫偏の漢字はどうやって覚えたの?
- 7 虫と蟲の違いって何?
- 8 寺子屋の教科書に出ていたのはどんな虫?
- 9 ホタルはどこから生まれてくるの?
- 10 顕微鏡で観察したのはどんな虫?
- 11 最も精密な虫の絵はどれ?
- 12 『千虫譜』って本は出版されてないの?
- 13 寄生虫の専門書ってどんな本?
- 14 血を吸う虫が漢方薬になったの?
- 15 虫に寄生するキノコがいるの?
- 16 江戸時代にはどんな標本があったの?
- 17 虫の略画の有名人って誰?
- 18 葛飾北斎がスケッチしたのは何の虫?
- 19 定規とコンパスで虫が描けたの?
- 20 クモとカニは近い関係と思われてたの?
- コラム① 夜中に売られていた虫
- コラム② 蟻通のマジックショー
- コラム③ 雪の中で育つハエ
- コラム④ 菅原道真を虫から守った鳥
- コラム⑤ 虫の単位の歴史
英語でホタルを説明する

引用元:Shibata Zeshin
「ホタルは虫です」とだけ言って終わらせるのはちょっとな、と思っているそこのあなた。
日本人にとって特別なんです感も含めて、うまく説明してみたいですよね。
『カラー版 英語で紹介する日本事典』の「ホタル」をご紹介します。
ホタル[幽玄な夏の夜のホタル]
日本の代表的なホタルにはゲンジボタルやヘイケボタルがあり、初夏に成虫となります。腹部の末端が発光するために夏の風物詩として人気があります。一時期、河川の汚染などからホタルの数が減少しましたが、近年は環境も回復し、増えてきています。日本人はホタルにはかなげで寂しいイメージを持っています。
Hotaru:firefly [Fireflies in summer nights are subtle and profound.]
Most typical species of fireflies in Japan are genji-botaru and heike-botaru and they grow into adult insects in early summer. The tip of its abdomen glows in the night, so it is popular as a charming summer sight. The number of fireflies decreased once because of contamination of rivers, but improvement of the natural environment. Japanese people have an image of a firefly as an ephemeral and solitary creature.
堀口佐知子(監修). 2013-6-30 第4版発行. 『カラー版 英語で紹介する日本事典』. ナツメ社. p.48.
蛍にとって棲み易い場所が増えて、それに伴い蛍の数も増えるといいですね。
ホタル狩りの思い出
私自身は「たくさんの蛍が飛び交っている」場面というのは見たことがありません。
気付けば蛍自体、もう長いこと見ていませんねえ。
小さい頃、人から “ヒミツのホタル・スポット” を聞いた親に連れられて遠くまで蛍を見に行ったのですが、その場所に居合わせたおじさんが、「そこ、マムシが出るよー」。
慌てて逃げ帰りました。
結局数匹の光を見ただけで、たくさんの蛍を鑑賞することはできませんでしたが、ホタル狩りといえばこの話を思い出します。
能登、応援しています!