眠れるニンフに近づく精霊『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』(ヴァトー作)解説

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18世紀ロココ絵画の先駆けとなったアントワーヌ・ヴァトー。今回は小説の表紙に使われた神話画『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』です。

『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』( Nymphe et satyre, dit parfois Jupiter et Antiope ) 73 cm×107 cm 1716年 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵
『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』( Nymphe et satyre, dit parfois Jupiter et Antiope ) 1716年 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵

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目次

『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』( Nymphe et satyre, dit parfois Jupiter et Antiope ) 1716年 アントワーヌ・ヴァトー

『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』( Nymphe et satyre, dit parfois Jupiter et Antiope ) 73 cm×107 cm 1716年 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵
『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』 73 cm×107 cm 1716年 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵

引用元:『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』

ルーヴル美術館公式サイト(お出掛け前には最新状況をご確認ください)

優雅で、どこか哀愁が漂う雅宴画で知られる18世紀の画家アントワーヌ・ヴァトー(ワトーとも表記 Antoine Watteau, 1684年10月10日-1721年7月18日)による神話画です。

アントワーヌ・ヴァトー(1684年-1721年)の肖像 パステル画 1721年 ロザルバ・カッリエーラ Luigi Bailo Museum蔵
アントワーヌ・ヴァトーの肖像 パステル画 1721年 ロザルバ・カッリエーラ Luigi Bailo Museum蔵

引用元:アントワーヌ・ヴァトーの肖像

「ニンフとサテュロス」または「ユピテルとアンティオぺー」

『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』
『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』 ルーヴル美術館蔵

引用元:『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』

森の中、白い裸身をさらして無防備に眠るニンフ(精霊)に、そっと近づくサテュロス(半人半獣の精霊)。

好色な目を向けつつ、サテュロスが慎重な手つきでニンフから布を取り去る、という場面です。

『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』 73 cm×107 cm 1716年 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵
『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』 ルーヴル美術館蔵

酒神デュオニュソスの従者でもあるサテュロスの頭には、デュオニュソスにちなむ葡萄の葉の冠が。

『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』 73 cm×107 cm 1716年 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵
『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』 ルーヴル美術館蔵

この作品は『ニンフとサテュロス』の他に、 『ユピテルとアンティオぺー』という名も付いています。

『ユピテルとアンティオぺー』の物語は、古代ローマ、詩人オウィディウスの『変身物語』から。

テバイ王の美しい娘アンティオぺーを見初めた神ユピテル(ギリシア神話のゼウス)はサテュロスに姿を変え、眠るアンティオぺーに近付きます。

ユピテルと交わったアンティオぺーは双子を妊娠。

その後アンティオぺーは大変な苦労を強いられることになります。

ユピテル?サテュロス?

サテュロスまたは神ユピテル(ゼウス)が、眠るニンフまたはアンティオぺーにそっと近づき、その衣服をはぎ取る。

このような場面は、女性のヌードを描く口実に使われました。

「これは神話の中の場面であって、生身の女性の裸を描いたわけではないんですよ」という「言い訳」ですね。

『名画で読み解くギリシア神話』では同じ主題のヴァン・ダイクの絵画が挙げられていますが、ヴァン・ダイクの絵には、この毛むくじゃらの人物が実は主神ユピテル(ゼウス)であることを示すための目印が描かれています。

ユピテルの持ち物(アトリビュート)は鷲、雷電です。

『ユピテルとアンティオぺー』 17世紀前半 アンソニー・ヴァン・ダイク ゲント美術館蔵
『ユピテルとアンティオぺー』 17世紀前半 アンソニー・ヴァン・ダイク ゲント美術館蔵

引用元:『ユピテルとアンティオぺー』

ヴァン・ダイクの鷲は雷電、稲妻を加えていますよね。

ということは、ここにいるのはサテュロスではなく、サテュロスに変身した主神ユピテルであると判ります。

『ユピテルとアンティオぺー』 17世紀前半 アンソニー・ヴァン・ダイク ゲント美術館蔵
『ユピテルとアンティオぺー』 ゲント美術館蔵

ヴァトーの作品には鷲などのユピテルの目印がありません。

ヴァトーは「ユピテル」、「サテュロス」、どちらを描いたのでしょうか。

『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』にはこのような記述もあります。

今こういう絵を持っている美術館は、どっちの名前を付けてよいのか困るよね。ご先祖様が昔この絵を「ゼウスとアンティオぺ」と言われて購入したけれども、子孫がルーヴル美術館に寄贈したら、今の画題にはただの「サテュロスとニンフ」か、あるいはゼウスの名は( )の中にしか残っていない。図象学的な証拠がないから変えられたのはやむを得ないけれども、この絵が流通した昔の伝承は、今でも大事に生かすべきだと思うのだけどなあ。

井出洋一郎. 2011-6-26. 『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』. 中経の文庫. pp.31-32.

『ユピテルとアンティオぺ―』を寄贈した筈なのに、後世に美術館に展示された時には『ニンフとサテュロス』のように、違うタイトルになっていた、と。

下の絵画もかつては『ユピテルとアンティオぺー』の名で呼ばれていましたが、現在は「ヴィーナスとサテュロス」「ニンフとサテュロス」を描いたものとされています。

『眠れるヴィーナスとキューピッド、サテュロス』( Vénus, Satyre et l’Amour endormi ) 1524年-1527年の間 コレッジョ ルーヴル美術館蔵

『眠れるヴィーナスとキューピッド、サテュロス』( Vénus, Satyre et l'Amour endormi ) 1524年-1527年の間 コレッジョ ルーヴル美術館蔵
『眠れるヴィーナスとキューピッド、サテュロス』 1524年-1527年の間 コレッジョ ルーヴル美術館蔵

引用元:『眠れるヴィーナスとキューピッド、サテュロス』

ルーヴル美術館公式サイト(お出掛け前には最新状況をご確認ください)

書籍によっては『ユピテルとアンティオぺー』になっているかもしれません。

この作品を収蔵しているルーヴル美術館では、現在は『眠れるヴィーナスとキューピッド、サテュロス』となっています。

『ニンフとサテュロス』( Nymph snd Satyrs ) 1527年 二コラ・プッサン ナショナル・ギャラリー蔵

『ニンフとサテュロス』( Nymph snd Satyrs ) 1527年 二コラ・プッサン ナショナル・ギャラリー蔵
『ニンフとサテュロス』 1527年 二コラ・プッサン ナショナル・ギャラリー蔵

引用元:『ニンフとサテュロス』

『官能美術史』によれば、この絵も長く『ユピテルとアンティオぺー』の主題と見なされていたようです。

『官能美術史 ヌードが語る名画の謎』

とても勉強になる書籍だと思います。今回のワトーの絵画、プッサンの絵画も掲載されています。

裸の絵って奥が深いと改めて感じます(^^;。

海外の美術館、美術展に行く前に読むと役に立ちそうですね。

電子書籍も出ていますので、気軽に読めると思います。池上英洋氏の解説も解りやすいですよ。

画像を押すと Amazon のサイトに飛びます。

『官能美術史 ヌードが語る名画の謎』 筑摩書房
この際ギリシア神話の登場人物を知りたい場合は

有名絵画を観る前に神話の知識をGET。

他にも多くの書籍が出ています。

下に挙げた2冊は電子書籍は出ていませんが、神話の場面の解説、名画とその見所が解説されています。

画像を押すと Amazon のサイトに飛びます。

『名画で読み解く「ギリシア神話」』 吉田敦彦(監修) 『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画 改訂版』  千足伸行(著)

『シャンゼリゼ(エリュシオンの園)』( Les Champs Elysées ) 1717年-1718年頃 アントワーヌ・ヴァトー ウォレス・コレクション蔵

『シャンゼリゼ(エリュシオンの園)』( Les Champs Elysées ) 1717年-1718年頃 アントワーヌ・ヴァトー ウォレス・コレクション蔵
『シャンゼリゼ(エリュシオンの園)』 1717年-1718年頃 アントワーヌ・ヴァトー ウォレス・コレクション蔵

引用元:『シャンゼリゼ(エリュシオンの園)』

英国の美術館にあるヴァトーの絵画。

美しい身なりの男女が談笑している場面ですが、右に立つ男性をご覧ください。

その頭上にはある彫刻が…。

右腕に頭をのせ、足を少しずらして眠るポーズは『ニンフとサテュロス(ユピテルとアンティオぺー)』とほぼ同じです。

『シャンゼリゼ(エリュシオンの園)』 ウォレス・コレクション蔵
『シャンゼリゼ(エリュシオンの園)』 ウォレス・コレクション蔵

引用元:『シャンゼリゼ(エリュシオンの園)』

『ニンフとサテュロス』では、眠る女性を眺めていたのはサテュロスでしたが、今この像を見ているのは、ちょっと変わった衣装に身を包んだ男性です。

動画でヴァトーの作品を鑑賞

Jean Antoine Watteau: A collection of 98 works (HD)

LearnFromMasters 様の動画では、解説はありません。

麗しいロココの絵画に泣けてきます。

ルーヴル美術館にあるヴァトーの絵画

素描も含めればこんなもんじゃない数なのですが、ここでは5点ご紹介します。

サテュロスのためのスケッチ( Satyre soulevant une draperie
) 1715年頃 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵

サテュロスのためのスケッチ 24.5cm×29.8cm 1715年頃 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵
サテュロスのためのスケッチ 24.5cm×29.8cm 1715年頃 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵

引用元:サテュロスのためのスケッチ

ルーヴル美術館公式サイト(お出掛け前には最新状況をご確認ください)

『サテュロスのためのスケッチ』( Satyre soulevant une draperie )/ グラフィックアーツ相談室で予約して閲覧可

一緒にニンフのスケッチが無いのが残念。

『ディアナの水浴』( Diane au bain ) 1715年頃 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵

『ディアナの水浴』( Diane au bain ) 1715年頃 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵
『ディアナの水浴』 80cm×101cm 1715年頃 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵

引用元:『ディアナの水浴』

ルーヴル美術館公式サイト(お出掛け前には最新状況をご確認ください)

『ディアナの水浴』( Diane au bain )/ 展示場所:シュリー翼、917展示室

『二人の従姉妹』( Les deux Cousines ) 1716年頃 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵

『二人の従姉妹』( Les deux Cousines ) 1716年頃 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵
『二人の従姉妹』 30cm×36cm 1716年頃 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵

引用元:『二人の従姉妹』

ルーヴル美術館公式サイト(お出掛け前には最新状況をご確認ください)

『二人の従姉妹』( Les deux Cousines )/ 展示場所:シュリー翼、918展示室

『シテール島への巡礼』( Pèlerinage à l’île de Cythère ) 1717年 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵

『シテール島への巡礼』( Pèlerinage à l'île de Cythère ) 1717年 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵
『シテール島への巡礼』 120cm×190cm 1717年 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵

引用元:『シテール島への巡礼』

ルーヴル美術館公式サイト(お出掛け前には最新状況をご確認ください)

『シテール島への巡礼』( Pèlerinage à l’île de Cythère ) / 展示場所:シュリー翼、917展示室

『ピエロ』( Pierrot ) 1718年頃 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵

『ピエロ』( Pierrot ) 1718年頃 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵
『ピエロ』 184cm×149cm 1718年頃 アントワーヌ・ヴァトー ルーヴル美術館蔵

引用元:『ピエロ』

ルーヴル美術館公式サイト(お出掛け前には最新状況をご確認ください)

ジュースキントの小説『香水 ある人殺しの物語』の表紙

香水 ある人殺しの物語

2007年の映画『パフューム ある人殺しの物語』の原作。

18世紀のフランスを舞台にした、ある調香師の物語です。

香水、調香師と聞くと、なんだかロマンティックな物語を想像してしまいそうですが、ちょっと違います。「処女の香り」、「殺人」がこの小説のキーワード。

ヴァトーの表紙に惹かれ、ドイツ語版にチャレンジしてみましたが…わっかんねー。という感想でした。そんな感想ですみません。もちろん私のショボい語学力のせいです。前半は結構面白かったんですけどね。

その後日本語版で読み直しましたが、やっぱり難解でした。

難解な上、好き嫌いも大きく分かれる作品だと思います。

時間を置いて読めば、また違う印象を持つかも、とまだしつこく手元に持っています。

チャレンジしてみたい方、画像を押すと Amazon のサイトに移動しますので、是非。

『香水 ある人殺しの物語』 文春文庫 Das Parfum Kindle版 『パフューム ある人殺しの物語』 プレミアム・エディション [DVD] 
主な参考文献
  • 吉田敦彦(監修). 2013-7-20. 『名画で読み解くギリシア神話』. 世界文化社.
  • 井出洋一郎. 2011-6-26. 『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』. 中経の文庫.
  • 池上英洋. 2014-11-10. 『官能美術史 ヌードが語る名画の謎』. 筑摩書房.
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