ルーヴル美術館にある「クニドスのアフロディテ」の像。『カウフマンの頭部』も掲載しました。

ルーヴル美術館の「クニドスのアフロディテ」たち
アフロディテ頭部 通称《カウフマンの頭部》( statue ; Tête de l’Aphrodite Kaufmann ) 紀元前150年頃 ルーヴル美術館蔵

引用元:アフロディテ頭部 通称《カウフマンの頭部》 Gary Todd CC-Zero Flickr images reviewed by FlickreviewR 2
元の所有者カウフマン( Kaufmann )にちなみ、『カウフマンの頭部』とも呼ばれている女神像。
紀元前150年頃に作られたこの像は『クニドスのアフロディテ』の優れた模刻のひとつとされています。
『カウフマンの頭部』( statue ; Tête de l’Aphrodite Kaufmann )
展示場所:シュリー翼、344展示室
古代ローマの文筆家によると、「わずかに微笑んでいた」とされる『クニドスのアフロディテ』。
本作は最もプラクシテレスのオリジナル作品に近いともいわれています。
ちょっとした角度、陰影の出方で随分印象が違いますね。
画像を挙げてくたさっている方々に感謝します。

引用元:アフロディテ頭部 通称《カウフマンの頭部》 Marie-Lan Nguyen CC-BY-2.5

引用元:アフロディテ頭部 通称《カウフマンの頭部》 Shonagon CC-Zero

引用元:アフロディテ頭部 通称《カウフマンの頭部》 Marie-Lan Nguyen CC-BY-2.5

引用元:アフロディテ頭部 通称《カウフマンの頭部》 Sting CC-BY-SA-2.5
『カウフマンの頭部』『クニドスのアフロディテ小像』( 記事内の2点 )も来日
アフロディテ頭部( statue ) ローマ帝国時代(プラクシテレスのオリジナルは紀元前360年頃) ルーヴル美術館蔵

引用元:アフロディテ頭部 Sting CC-BY-SA-2.5
元の所有者はカミーユ・ボルケーゼ侯爵。1807年にルーヴル美術館入りしています。
展示場所:シュリー翼、344展示室
鼻は欠けていますが、美貌は健在。
品があって官能的、いつまでも見ていたい表情です。

引用元:アフロディテ頭部 Gary Todd CC-Zero Flickr images reviewed by FlickreviewR 2

引用元:アフロディテ頭部 Gary Todd CC-Zero Flickr images reviewed by FlickreviewR 2

引用元:ルーヴル美術館展示風景 Darafsh CC-BY-SA-3.0
『クニドスのアフロディテのトルソー』( statue ; Aphrodite de Cnide ) 100年-200年? ルーヴル美術館蔵

引用元:『クニドスのアフロディテのトルソー』 Jean-Pol GRANDMONT
『クニドスのアフロディテのトルソー』( statue ; Aphrodite de Cnide )
展示場所:シュリー翼、344展示室
この美しいトルソー他プラクシテレスの模刻も掲載。ちょっと古いし大きい本ですが、参考になります。
『クニドスのアフロディテ』とは
『クニドスのアフロディテ』または『クニドスのヴィーナス』と表記されますが、ギリシャ神話に出てくる愛と美の女神アフロディテは、ローマ神話のヴィーナスと同一視されます。
彫刻家プラクシテレス
プラクシテレスは彫刻家・大ケフィソドトスの息子で、紀元前300年代半ばに活躍した彫刻家です。
コス島の人々から女神像の注文を受けたプラクシテレスは、自分の愛人だった高級娼婦フリュネをモデルに、ふたつの像を制作します。
最初に制作した女神像は衣を着けていましたが、次にプラクシテレスが制作したのは全裸の女神像。
この像以前にも全身裸体のヴィーナスの小像はあったそうですが、等身大の裸体像は初めてでした。

初のオールヌードの女神像

引用元:紀元前4世紀にクニドスで発行された硬貨(20世紀のエングレービング)
完成した像はどちらも素晴らしい出来栄えでした。
どちらを引き渡すか迷ったプラクシテレスは、両方を注文主であるコス島の都市の議会に送ります。
しかし全裸の女神像を見たコス島の人々は仰天し、女神像の受け取りを拒否。
大論争の末、コス島の人々は着衣版の女神像のみを入手しました。
受け取りを拒否された裸体版の女神像はどうなったのか?
この女神像はクニドスによって購入されました。
すると裸体の女神像は人々が船に乗って見学に来るほどの大ブームに。
近隣の帝王から譲って欲しいという申し出がありましたが、クニドスの人々はこれを断りました。
『クニドスのヴィーナス』から派生した女神像
記事内ではアフロディテとヴィーナスというように記述が混在していますが、書籍やWikipediaにあるそれぞれの通称に従っています。
古代においても大変有名だった『クニドスのアフロディテ』のレプリカは大小の断片、大理石、青銅、テラコッタの小像、コインなど、現在200体近く知られているそうです。
『クニドスのアフロディテ』の派生として、『カピトリーニのヴィーナス』、フィレンツェの『メディチのヴィーナス』などがあります。
下の画像はルーヴル美術館にある「カピトリーニのヴィーナス」です。この作品も元はボルケーゼ侯爵の所有でした。
こちらは身をかがめ、陰部だけではなく胸も隠そうとしています。

引用元:『アフロディテとエロス』 Jastrow
『アフロディテとエロス』( groupe statuaire ; Aphrodite et Éros )
展示場所:シュリー翼、344展示室
ふたつのタイプ、「コロンナのヴィーナス」と「ベルヴェデーレのヴィーナス」
『クニドスのアフロディテ』には大きく分けてふたつのグループがあります。
「自信に満ち威厳と落ち着きがあり、穏やか」な「コロンナのヴィーナス」像と、「用心深く、不安げな表情」を浮かべる「ベルヴェデーレのヴィーナス」像です。
「コロンナのヴィーナス」( colonna venus )のグループ

引用元:『クニドスのヴィーナス』
「ベルヴェデーレのヴィーナス」( Belvedere Venus )のグループ

引用元:『クニドスのヴィーナス』 Daderot CC-Zero
図録『ルーヴル美術館展 ― 古代ギリシア芸術・神々の遺産 ―』(2006)から引用します。
各々のグループは、ヴァチカン美術館にある像の名前をとって名付けられているが、まず、コロナと呼ばれるタイプの像は、遠くを眺め、透き通った印象をもった女神で、衣服の襞はシンプルで、水浴しようとしており、傍らにおかれたアンフォラは小さく、地面に直接おかれている(cat.no.128参照)。
『ルーヴル美術館展 ― 古代ギリシア芸術・神々の遺産 ―』(2006) . p.177.
※「コロナ」となっていますが、本記事では「コロンナ」としています。
ここで挙げられている「cat.no.128」はこちらです。
『クニドスのアフロディテ小像』( statuette ) ローマ帝国時代(プラクシテレスのオリジナルは紀元前360年頃) ルーヴル美術館蔵

引用元:『クニドスのアフロディテ小像』
展示場所:シュリー翼、344展示室
見開きに掲載されている「cat.no.29」は下の画像です。
『クニドスのアフロディテ小像』( statuette ) ローマ帝国時代(プラクシテレスのオリジナルは紀元前360年頃) ルーヴル美術館蔵

展示場所:シュリー翼、344展示室
先の引用に続きます。
第二のタイプ(cat.no.30《カウフマンの頭部》も参照)は、ベルヴェデーレと呼ばれるもので、第一のタイプとは全く異なる。女神の横におかれた容器は把手が装飾されたヒュドリアで、台の上におかれ、ドレープの襞は複雑。長い首を傾げた頭部の不安げな様子は、入浴している際に不意をつかれ、裸を隠そうとしているかのようである。
『ルーヴル美術館展 ― 古代ギリシア芸術・神々の遺産 ―』(2006) . p.177.
プラクシテレスに関する記事(「ローマン・コピー」)からも一部引用します。
In the 4th century BC, figures of goddesses became more humanized, but did not display mortal weaknesses. The Venus Belvedere is a Hellenistic reinterpretation of the figure – more earthly, eroticized, and profane.
プラクシテレスに関する記事(「ローマン・コピー」)から一部引用
(Google翻訳:紀元前 4 世紀には、女神の姿はより人間化されましたが、致命的な弱点は見られませんでした。ヴィーナス ベルヴェデーレは、ヘレニズム時代の人物像の再解釈であり、より世俗的で、エロチックで、俗悪なものです。)
落ち着いて自身に満ちたコロンナのヴィーナスと、入浴を覗かれて困惑気味?または恥じらう様子を見せるベルヴェデーレのヴィーナスというところでしょうか。
一部の専門家は、プラクシテレスの原作に最も近いのはコロンナのヴィーナスのタイプだとしているそうです。
ローマ時代の模刻がこんなに素晴らしいのだから、オリジナルは一体どれほどのものだったのでしょうねえ。
いやぁ、見てみたいものです。
古代彫刻がたくさん掲載されています。アフロディーテに関する解説もわかり易いです。